運指脱力の指導とは
運指でやはり重要なのは脱力。力が抜けた時にこそスムーズに指は動くようになります。
その脱力では2つの別の目的があります。
- 指を速く動かす事
- 痛みを取る事
この目的を明確にした練習方法が大事と考えています。
指への痛みを感じる人に速く動くための運指トレーニングをしても目的が違うということです。
もちろん現状での技術力も関係しますが、それを以下の2つの項目で振り分けています。
- 経験年数
- 読譜力
経験年数もそれなりにあり、読譜力も十分であると感じる。けど指の動きが遅いと感じる場合は1番の指を速く動かすことを目的とした練習になります。これは筋トレ的要素がとても強く、指の動きをしっかりと覚えさせるための反復練習です。
反復練習することにより、筋肉(というか脳)が身体の使い方を覚え、脱力していき、速く動くという意味です。主に白色筋肉(遅筋)を鍛える事が目的です。
そしてほとんどの場合が2番です。
痛みを取ることを目的とした練習です。
これは経験年数が浅く、読譜力があまり強くない場合に行います。実は「読譜力」というのがかなりのキーワードになります。
譜読みが遅い→読むのに精一杯で楽曲に付いて行くのが精一杯→運指の事に気が回らない(押さえる指のことばかり考える)→力強くキーを押してしまい、痛みを感じる
こうなることがほとんどだからです。
譜読みを行い、いわゆる暗譜状態になった時には比較的力が抜けます。つまり、意識を運指に回せるような精神状態を作ることが最大の目的です。
運指のコツは如何に譜読みをどれだけ正確にできているかです。
実は速く動かない運指(正確にできない運指)の共通点はこの譜読みが曖昧な状態な場合が最も多く見られます。脳で正確に自分の指の動きを把握できないで、身体だけで覚えようとする場合によく起きてしまいます。正確にイメージ出来ている場合は逆にスムーズに出来たりします。
確認方法は簡単で、難易度の高い速いフレーズを練習した時に、途中で止めたり、遅くなったりすると、譜読みへの疑いを持ちます。(→運指の練習の前に譜読みの練習へ)
スムーズに読めているが、運指が動かない場合は筋力的なトレーニングが必要という事を判断します。(→1番のトレーニングへ)
さて、実際の練習方法では意識を持って行くところを考えてもらいますが、まずは1番でも2番でも共通して考えてもらう内容が以下の事です。
・押さえるのではなく、離さない運指を心がける
サックスはキーを押さえて音程を変えますが、この考え方を変えます。楽器から指が離れないように力を入れます。つまり楽器側に力が行くのではなく、外へ向かっていく力に制限をかける。これだけで押さえる力が激減します。
動かない指の原因は「内側へ向かう力(押さえる)」と「外側へ向かう力(離す)」の2つの相反する動きが手の中にいるからです。この中でも「外側へ向かう力」というのは楽器演奏では必要のない力です。楽器にはスプリングが付いているので、力を抜くだけでキーは離れるようになっています。「押さえる↔離す」のではなく「押さえる↔押さえない」に考え方が変わった瞬間、痛みからも解放され、速さも出てきます。
しかし、この考え方を会得してもらうには、まず最初に離さない運指を心がけてもらいます。押さえることは容易に考えることができます。しかし、思いの外離さない動きが難しい事に気づきます(特に速い運指になればなるほど)。この、離さない動きに慣れてくると、力が抜けていくコツとなります。
・指は伸ばさず曲げておく
人間の指は力が入り過ぎると指はまっすぐに伸びてしまいます。逆に力が抜けると軽く曲がるような状態です。ここでの考え方は指が曲がるような脱力を意識するのではなく、力を入れてもいいから常に軽く曲げた状態で演奏することです。そして常に力を入れておくのは不可能ですので、結果として力が抜けていくことになるからです。
そしてここからが1番と2番の違いになるのですが、1番は痛みをとるのではなく、痛めつけるのが目的です。前述したように、筋トレが目的となるので、徹底的に指を速く長く動かし続けるようなトレーニングにします。すると右肘から手首にかけて疲れるポイントが出てきます。これを鍛えるようにします。もちろん筋肉の鍛え方になるので、休憩が必要となるトレーニング方法です。
痛みをとる2番のトレーニングはスケール練習やロングトーンなど、運指をあまり考えなくても出来るもので行います。疲れさせない、痛めないが最重要課題なので、曲練習でコレを考えるのはかなり後回しです。
そこで構え方(ストラップの高さや手首の角度)を見直し、指の動きを意識してもらうようにします。ここでは音色・音程も考えず、運指に集中してもらうことが重要です。
もちろん上記のトレーニングは脱力を目的としているので、一朝一夕で身につくものではありません。長期的に期間を考えたトレーニングにすることが大事です。
そしてどちらも結果として痛みを取ることが目的なので、絶対に無理をしないことを最大限に考えておくようにします。